コラム 技術・人文知識・国際業務

【2026年最新】製造業における「技術・人文知識・国際業務」ビザを徹底解説!採用のポイントから申請の流れまで

行政書士 松浪 正治

ビザ申請を専門にしている大阪府枚方市の行政書士です。 オンライン申請により全国対応可能です。

製造業における人手不足が深刻化し、企業の持続的な成長において専門知識を持つ優秀な外国人材の確保が不可欠な時代となりました。その採用活動の鍵を握るのが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格(通称:技人国ビザ)ですが、「自社のこのポジションはビザの対象になるのか?」「工場での業務が含まれるが、単純労働と見なされないか?」「申請手続きが複雑で、何から手をつければ良いか分からない」といった疑問や不安を抱える人事・採用担当者様は決して少なくありません。特に製造業では、許可される業務と認められない業務の線引きが他の業種に比べて複雑なため、正しい知識なくして採用成功は難しいのが実情です。この記事では、そのようなお悩みをすべて解決するため、製造業での外国人採用に特化し、「技術・人文知識・国際業務」ビザの基礎知識から、採用できる職種・できない職種の具体的な判断基準、出入国在留管理庁への申請手続きの流れ、そして不許可になりがちな失敗事例とそれを回避するためのポイントまで、企業担当者が知りたい情報を網羅的に解説します。この記事を最後までお読みいただければ、貴社が求める人材がビザの要件を満たすか否かを的確に判断し、求人票の作成、雇用契約書の準備、煩雑な申請書類の作成、採用後の労務管理に至るまで、一連のプロセスを自信を持って進めることができるようになります。結論から申し上げますと、製造業で「技術・人文知識・国際業務」ビザの許可を勝ち取るために最も重要なポイントは、**「①採用後の職務内容が専門的・技術的業務であることを明確に設計すること」**と、**「②その職務内容と採用する外国人材の学歴(専攻分野)または実務経験との間に、客観的かつ強い関連性があることを証明すること」**の2点に尽きます。特に、生産ラインにおける技術指導や品質管理など、一部現場作業を伴う可能性がある職種では、その業務が「単純労働」ではなく、大学等で修得した専門知識を要するものであることを論理的に説明できるかが、審査の最大の分かれ目となります。本稿では、この2大要件をクリアするための具体的な職務設計の方法や立証資料の準備ノウハウはもちろん、適正な給与水準の設定や企業の安定性といった審査上の重要ポイントについても、豊富な事例を交えながら詳しく掘り下げていきます。ビザ申請への不安を解消し、貴社の未来を担う優秀な外国人材の採用を成功させるための確かな一歩を、この記事とともに踏み出しましょう。

目次 非表示

1. 製造業で増える外国人採用と技術・人文知識・国際業務ビザの基礎知識

深刻化する人手不足を背景に、多くの製造業で外国人材の採用が活発化しています。特に専門知識や技術を持つ優秀な人材を確保する上で、「技術・人文知識・国際業務」ビザは欠かせない選択肢です。この章では、製造業における外国人採用の現状と、その中核をなす「技術・人文知識・国際業務」ビザの基本的な考え方について解説します。

1.1 製造業の人手不足と外国人材ニーズの高まり

日本の生産年齢人口の減少は、特に製造業において深刻な人手不足を引き起こしています。厚生労働省の調査でも、製造業は他業種と比較して人手不足を感じている企業の割合が高い状況が続いています。このような状況下で、事業の維持・拡大を図るためには、国内人材だけでなく、海外の優秀な人材に目を向けることが不可欠です。

かつては現場作業を担う人材が中心でしたが、近年では製品の高度化や海外展開の加速に伴い、設計開発、品質管理、生産技術といった専門技術を持つエンジニアや、海外営業、マーケティング、通訳・翻訳などを担う人材のニーズが急速に高まっています。こうした専門職(ホワイトカラー)の採用において、中心的な役割を果たすのが「技術・人文知識・国際業務」ビザなのです。

1.2 技術・人文知識・国際業務ビザと他の就労系在留資格の位置づけ

日本で外国人が働くためには、活動内容に応じた在留資格(ビザ)が必要です。「技術・人文知識・国際業務」ビザは、数ある就労系在留資格の中でも、大学等で得た専門知識や実務経験を活かす専門職向けの代表的な資格です。製造業で活用される他の主要な在留資格との違いを理解することが、適切な人材採用の第一歩となります。

在留資格主な目的・対象業務求められる要件(学歴・経験など)家族帯同
技術・人文知識・国際業務専門知識を要する技術・事務・国際業務(いわゆるホワイトカラー業務)大学卒業以上または10年以上の実務経験(国際業務は3年以上)など可能
特定技能特定産業分野における相当程度の知識または経験を要する技能(現場作業を含む)技能試験・日本語試験に合格1号は原則不可、2号は可能
技能実習日本の技術等を習得し、母国へ移転するための技能習熟(OJTを通じた実習)実習計画の認定が必要不可
高度専門職高度な能力を持つ人材(研究者、技術者、経営者など)をポイント制で評価学歴、職歴、年収などによるポイントが70点以上可能(優遇措置あり)

このように、「技術・人文知識・国際業務」ビザは、工場でのライン作業などの単純労働ではなく、専門的・技術的な知識を必要とする職務に従事するための在留資格として明確に位置づけられています。特定技能や技能実習とは対象となる業務内容が根本的に異なる点を押さえておきましょう。

1.3 出入国在留管理庁による在留資格の考え方

「技術・人文知識・国際業務」ビザの申請が許可されるかどうかは、出入国在留管理庁(以下、入管)の審査基準に適合するかで決まります。入管の審査では、主に以下の2つの観点から総合的に判断されます。

  1. 在留資格該当性
    申請者が日本で行おうとする活動が、希望する在留資格(この場合は「技術・人文知識・国際業務」)に定められた活動内容に合致しているかどうか。具体的には、従事する職務内容が、専門的知識を必要とする技術、人文知識、または国際業務のいずれかに該当するかが問われます。
  2. 上陸許可基準適合性
    申請者本人や受け入れ企業が、法務省令で定められた基準を満たしているかどうか。具体的には、本人が業務に必要な学歴や実務経験を有していること、日本人と同等額以上の報酬を受け取ること、受け入れ企業の事業が安定的・継続的であることなどが審査されます。

ビザを取得するためには、これら2つの要件をいずれも満たしていることを、提出書類を通じて客観的に証明する必要があります。この基本的な考え方は、出入国在留管理庁の公式サイトでも示されており、申請準備における大原則となります。

2. 技術・人文知識・国際業務ビザの要件と対象業務

製造業で外国人材が「技術・人文知識・国際業務」ビザ(以下、技人国ビザ)を取得するためには、出入国在留管理庁が定める複数の要件をクリアする必要があります。この要件は大きく分けて「在留資格該当性」と「上陸許可基準」の2つに分類され、両方の基準を満たさなければビザは許可されません。この章では、これらの基本要件と、製造業における具体的な対象業務について詳しく解説します。

2.1 在留資格該当性と上陸許可基準の基本要件

技人国ビザの審査では、まず「在留資格該当性」が問われます。これは、外国人材が日本で行う活動が、出入国管理及び難民認定法で定められた技人国ビザの活動範囲に合致しているかという点です。具体的には、従事する業務が「技術」「人文知識」「国際業務」のいずれかの専門性を必要とするものである必要があります。

次に、法務省令で定められている「上陸許可基準」を満たす必要があります。これには、本人の学歴や実務経験が業務内容と関連していること、日本人と同等額以上の報酬を受けること、そして雇用する企業の事業が安定的・継続的であることなどが含まれます。業務内容がビザの範囲内であっても、本人の経歴や企業の経営状態が基準を満たさなければ不許可となるため、両面からの準備が不可欠です。詳細な基準については、出入国在留管理庁のウェブサイトで確認することができます。

2.2 学歴と実務経験の要件

上陸許可基準の中でも特に重要なのが、申請者本人の学歴と実務経験です。従事する業務内容と、これまでの学びやキャリアとの間に関連性が求められます。主な要件は以下の通りです。

分野学歴要件実務経験要件
技術・人文知識・関連する技術・知識を専攻して大学を卒業したこと
・日本の専門学校を卒業し「専門士」または「高度専門士」の称号を得たこと
・10年以上の実務経験があること(学歴要件を満たさない場合)
国際業務(必須ではない)・翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝、海外取引業務等に関して3年以上の実務経験があること

特に「技術」「人文知識」の分野では、大学や専門学校での専攻科目と、就職後に担当する職務内容との関連性が厳しく審査されます。例えば、機械工学を専攻した学生が機械設計の業務に就く場合は関連性が明確ですが、専攻と全く異なる業務に就く場合は、その必要性を合理的に説明する必要があります。

2.3 技術分野の典型的な業務例と製造業でのポジション

「技術」分野は、理学、工学、その他の自然科学の分野に属する技術または知識を必要とする業務が対象です。製造業においては、製品開発から生産プロセスに至るまで、幅広い職種が該当します。

2.3.1 設計開発エンジニア

新製品の構想から具体的な設計、試作、評価までを担当する職種です。CAD/CAM/CAEといった専門ツールを駆使し、機械工学、電気電子工学、材料力学などの専門知識を活かして、製品の機能や性能を実現します。自動車部品メーカーにおけるエンジン部品の設計や、家電メーカーにおける新機能の回路設計などが典型例です。

2.3.2 品質保証・品質管理エンジニア

製品が一定の品質基準を満たしていることを保証する重要な役割を担います。統計的品質管理(SQC)や各種測定機器を用いて品質データを分析し、不良の原因究明や再発防止策を講じます。ISO 9001などの品質マネジメントシステムに関する知識も求められ、製造プロセスの改善提案なども行います。

2.3.3 生産技術・システムエンジニア

効率的で安定した生産体制を構築する職種です。生産ラインの設計や改善、製造設備の導入・保守、ロボットやIoT技術を活用した工場の自動化・スマート化(DX)などを担当します。生産工学や制御工学、情報工学といった知識が求められ、生産管理システムの開発や運用に携わることもあります。

2.4 人文知識分野の典型的な業務例と製造業でのポジション

「人文知識」分野は、法律学、経済学、社会学、その他の人文科学の分野に属する知識を必要とする業務が対象です。製造業においても、専門知識を活かせる事務・企画系の職種が存在します。

2.4.1 総務・人事・経理などの管理部門

大学で経済学や経営学を学んだ人材が、企業の財務状況を分析する経理職や、事業計画を策定する経営企画職に就くケースがこれに該当します。また、法学部出身者が契約書のリーガルチェックを行う法務職や、社会学部出身者が採用・労務管理を担当する人事職なども、専門知識を活かす業務として認められます。

2.4.2 マーケティング・企画・調査業務

自社製品の市場調査、競合分析、販売戦略の立案、広告宣伝活動などを担当する職種です。商学やマーケティング論を専攻した人材が、データ分析に基づいて新たな市場を開拓したり、製品のブランディング戦略を構築したりする業務が典型例です。海外市場向けのマーケティングもこの分野に含まれることがあります。

2.5 国際業務分野の典型的な業務例と製造業でのポジション

「国際業務」分野は、外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする業務が対象です。単に語学ができるだけでなく、その背景にある文化や商習慣への理解が求められます。

2.5.1 貿易実務・営業・海外顧客対応

海外の取引先との商談、輸出入に関する書類作成や手続き、クレーム対応などを行います。語学力はもちろんのこと、相手国の商習慣や文化を理解した上でのコミュニケーション能力が不可欠です。海外の現地法人や代理店との連携、管理業務もこの分野に含まれます。

2.5.2 通訳・翻訳業務と社内ブリッジエンジニア

技術マニュアルや契約書の翻訳、海外拠点とのテレビ会議での通訳などが主な業務です。ただし、単なる言語の置き換え作業だけでは「単純労働」と見なされる可能性があります。技術的な知識を背景に持つ「ブリッジエンジニア」として、海外の開発拠点と国内の技術チームとの間で仕様調整や進捗管理を行うなど、専門性を伴うコミュニケーションの橋渡し役を担うことで、国際業務としての専門性が認められやすくなります。

3. 製造業で技術・人文知識・国際業務ビザが使える職種と使えない職種

製造業で外国人を採用する際、多くの企業が「技術・人文知識・国際業務」ビザ(以下、技人国ビザ)の利用を検討します。しかし、この在留資格は全ての職種で認められるわけではありません。特に製造業では、許可される業務とそうでない業務の境界線が重要になります。ここでは、その明確な線引きと、混同されがちな他の在留資格との違いについて詳しく解説します。

3.1 工場現場作業とホワイトカラー業務の線引き

技人国ビザは、大学や専門学校で習得した専門的な知識・技術を活かす、いわゆる「ホワイトカラー」向けの在留資格です。そのため、原則として、製造ラインでの組立・加工、検品、梱包といった工場現場での現業(ブルーカラー業務)は対象外となります。

ただし、現場での作業が一切認められないわけではありません。例えば、以下のようなケースは技人国ビザの対象となる可能性があります。

  • 技術者が自ら設計・開発した製品の試作品を製作・テストする場合
  • 生産技術エンジニアが、新しい生産ラインの立ち上げや改善のために現場で指導・監督を行う場合
  • 品質管理担当者が、不良品の原因究明のために一時的に現場の工程を確認する場合

重要なのは、あくまで専門知識を必要とする「技術」「人文知識」「国際業務」に該当する業務の一環として、付随的に現場作業を行うという点です。業務の主目的が専門業務であることが、申請の際に明確に説明できなければなりません。

3.2 技術・人文知識・国際業務ビザでは認められにくい単純労働

出入国在留管理庁は、技人国ビザの審査において、従事する業務が「単純労働」に該当しないかを厳しくチェックします。単純労働とは、特別な知識や技術、経験がなくても、比較的短期間の訓練で習熟できる業務を指します。

製造業における単純労働の典型例は以下の通りです。

  • 製造ラインでの部品の組付け、取付け
  • 製品の目視検査、梱包、箱詰め
  • 倉庫での資材や製品の運搬、仕分け
  • 工場内の清掃、片付け

これらの業務は、学術的な素養や専門性を必要としないと判断されるため、技人国ビザの対象業務として認められることは極めて困難です。採用計画を立てる際は、担当させる職務内容がこれらの単純労働に偏っていないか、事前に精査することが不可欠です。

3.3 技能実習や特定技能と比較した職務内容の違い

製造業の現場で働く外国人材の在留資格として、「技能実習」や「特定技能」があります。これらは技人国ビザとは目的も対象業務も明確に異なります。人事担当者は、それぞれの違いを正しく理解し、採用したい人材と業務内容に合った在留資格を選択する必要があります。

在留資格目的主な対象業務(製造業)求められるスキル・学歴
技術・人文知識・国際業務専門的・技術的分野の業務設計、開発、生産技術、品質管理、営業、マーケティング、翻訳・通訳など大学卒業または同等以上の学歴、もしくは10年以上の実務経験
特定技能特定産業分野における人手不足の解消機械金属加工、電気電子機器組立、金属表面処理、紙器・段ボール箱製造、コンクリート製品製造、RPF製造分野などにおける現場作業技能試験および日本語試験の合格
技能実習技能、技術、知識の移転による国際貢献実習計画に基づいた現場作業を通じた技能等の修得母国での関連業務経験など(要件は職種による)

このように、技人国ビザが専門職(ホワイトカラー)向けであるのに対し、特定技能と技能実習は現場作業(ブルーカラー)を主たる業務とする点で根本的に異なります。工場のライン作業員として外国人を採用したい場合は、技人国ビザではなく、特定技能や技能実習の制度活用を検討するのが正しいアプローチです。

3.4 よくあるグレーゾーン事例とリスク

実務上、許可される業務と単純労働の境界線が曖昧な「グレーゾーン」のケースも存在します。安易な判断は不許可リスクを高めるため、注意が必要です。

3.4.1 事例1:幹部候補として採用し、長期間の現場研修を行う

将来の管理者として採用するものの、入社後1年間は現場研修としてライン作業のみに従事させる計画。この場合、申請時点での業務内容が「単純労働」と判断され、不許可となる可能性が非常に高いです。研修であっても、その内容と期間が専門業務習得のために合理的かつ必要不可欠であることを具体的に説明できなければなりません。

3.4.2 事例2:技術指導と現場作業を兼務する

生産技術者として採用し、日本人従業員への技術指導を行わせる傍ら、人手が足りない時間帯は自らもライン作業を手伝うケース。この場合、主たる業務が専門業務(技術指導)であり、単純労働が全体の業務時間のごく一部に留まることを客観的に示す必要があります。職務記述書(ジョブディスクリプション)で業務内容の割合を明記するなど、専門業務がメインであることを明確化することが重要です。単純労働の割合が多いと判断されれば、在留資格の更新が不許可になるリスクがあります。

これらのグレーゾーン事例は、不許可だけでなく、発覚した場合には在留資格取消しや、企業のコンプライアンス違反として今後の外国人採用に悪影響を及ぼす可能性もあります。疑義がある場合は、専門家である行政書士に相談することをお勧めします。

4. 外国人材採用時に企業側が準備すべきポイント

「技術・人文知識・国際業務」ビザで外国人を採用する場合、企業側には入念な準備が求められます。ビザ申請をスムーズに進め、採用後のトラブルを防ぐためにも、以下のポイントを確実に押さえておきましょう。これらの準備は、採用活動の初期段階から計画的に進めることが成功の鍵となります。

4.1 職務内容の設計と求人票の書き方

ビザ申請の成否は、従事する職務内容が在留資格の要件に合致しているかどうかに大きく左右されます。そのため、採用計画の第一歩である職務内容の設計と、それを反映した求人票の作成が極めて重要です。求人票を作成する際は、在留資格の要件を意識して、専門的・技術的な業務内容を具体的に記載することが不可欠です。「工場での補助作業」といった曖昧な表現は避け、「CNC旋盤のプログラミング及びオペレーション」「海外サプライヤーとの納期調整・品質管理」「生産管理システムの要件定義・開発」のように、専門性が明確に伝わるように記述しましょう。また、応募者の学歴や専攻と職務内容の関連性も審査の対象となるため、募集要件には「大学で機械工学を専攻した者」など、求める専門分野を明記することが望ましいです。単純労働と誤解される可能性のある業務は、主たる業務ではないことを補足説明するなどの工夫が求められます。

4.2 雇用契約書と労働条件通知書の作成ポイント

雇用契約書(または労働条件通知書)は、ビザ申請における最重要書類の一つです。記載された労働条件が適正であるか、そして申請内容と一致しているかが厳しく審査されます。作成にあたっては、まず労働基準法をはじめとする日本の労働関係法令を遵守することが大前提です。その上で、申請する職務内容と雇用契約書の内容に齟齬がないようにすることが審査通過の鍵となります。求人票や申請理由書に記載した専門的業務と、雇用契約書上の職務内容が一致しているか必ず確認してください。給与、労働時間、休日、勤務地といった基本的な労働条件はもちろん、時間外労働の有無や賃金形態についても明確に記載する必要があります。外国人本人が内容を正確に理解できるよう、平易な日本語を用いるか、必要に応じて母国語の翻訳版を準備することも、後のトラブル防止に繋がります。

4.3 給与水準と日本人社員との均衡の考え方

「技術・人文知識・国際業務」ビザでは、報酬額が「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上であること」が法律で定められています。これは、外国人であることを理由に不当な低賃金で雇用されることを防ぐための重要な基準です。したがって、外国人であることを理由に不当に低い報酬を設定することは、不許可の直接的な原因となります。給与水準を設定する際は、同じ職務内容、役職、経験年数の日本人社員の給与テーブルを基準に判断します。比較対象となる日本人社員がいない場合は、近隣地域の同業他社における同等職種の給与水準を参考に、客観的に妥当な金額を提示する必要があります。単に各都道府県の最低賃金を上回っているだけでは不十分であり、専門職としての待遇が保証されているかが問われます。

4.4 社会保険加入就業規則コンプライアンス対応

企業のコンプライアンス遵守状況も、ビザ審査において重要な判断材料となります。特に、社会保険への加入は法律上の義務であり、適正に手続きされていることが必須条件です。外国人社員も日本人社員と全く同じように、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険に加入させなければなりません。これらの手続きを怠ると、ビザが不許可になるだけでなく、法律違反として罰則の対象となる可能性もあります。また、就業規則も外国人社員に適用されるため、内容を周知し、理解を促す努力が求められます。企業の安定性・継続性を示す上で、納税証明書などを用いて法令を遵守している健全な企業であることを示すことも重要です。法令遵守は企業の信頼性を示す上で不可欠であり、ビザ審査においても厳しく見られます。外国人雇用に関する基本的なルールについては、厚生労働省のウェブサイト「外国人雇用のルールについて」も参考に、社内体制を整備してください。

保険の種類概要と加入義務
労災保険業務中や通勤中のケガや病気に対する保険。国籍や労働時間に関わらず、全ての労働者が対象。
雇用保険失業した場合や育児・介護で休業した場合の給付金。週20時間以上、31日以上の雇用見込みがある労働者は加入義務あり。
健康保険病気やケガで医療機関にかかる際の医療費負担を軽減する保険。法人の事業所は強制適用。
厚生年金保険老後の生活や障害・死亡に備える公的年金。健康保険と同じく、法人の事業所は強制適用。

5. 技術・人文知識・国際業務ビザ申請の流れと必要書類

外国人材の採用を決定したら、次はいよいよ在留資格の申請手続きです。特に海外在住の外国人を新規に採用する場合は「在留資格認定証明書(COE)」の交付申請が必要となります。この章では、製造業の担当者がスムーズに手続きを進められるよう、申請の具体的な流れと必要書類を分かりやすく解説します。

5.1 在留資格認定証明書交付申請の手順

海外にいる外国人を日本に呼び寄せて雇用する場合、一般的に以下の手順で「在留資格認定証明書(Certificate of Eligibility: COE)」の交付申請を行います。この証明書があることで、在外日本公館でのビザ(査証)発給がスムーズになり、日本での上陸審査も迅速に進みます。

  1. 必要書類の準備:採用企業と外国人本人が、それぞれ定められた書類を準備します。書類に不備があると審査が長引く原因となるため、入念なチェックが不可欠です。
  2. 申請書の提出:原則として、採用企業の所在地を管轄する地方出入国在留管理官署に「在留資格認定証明書交付申請書」と必要書類を提出します。行政書士などによる代理申請やオンライン申請も可能です。
  3. 出入国在留管理庁による審査:提出された書類をもとに、在留資格の要件(在留資格該当性、上陸許可基準適合性)を満たしているかどうかが審査されます。
  4. 在留資格認定証明書の交付:審査で許可されると、企業宛に在留資格認定証明書が郵送されます。
  5. 証明書の送付:企業は受け取った証明書の原本を、採用する外国人本人へ国際郵便などで送付します。
  6. 在外日本公館での査証(ビザ)申請:外国人本人が、自国にある日本大使館や総領事館にパスポートと証明書などを持参し、査証(ビザ)を申請します。
  7. 来日・上陸審査:査証が発給されたパスポートと在留資格認定証明書を提示し、日本の空港などで上陸審査を受けます。問題がなければ在留カードが交付され、日本での就労が可能になります。

5.2 採用企業が用意する書類一覧

提出書類は、企業の規模や形態によってカテゴリー分けされており、カテゴリーごとに一部省略できる書類があります。自社がどのカテゴリーに該当するかは、出入国在留管理庁のウェブサイトで確認してください。ここでは、主に中小規模の製造業(カテゴリー3・4)で必要となる代表的な書類をまとめました。

書類名内容・注意点
在留資格認定証明書交付申請書出入国在留管理庁のウェブサイトからダウンロードできます。申請人(外国人)の情報、所属機関(企業)の情報、活動内容などを正確に記入します。
会社の登記事項証明書法務局で取得します。発行から3ヶ月以内のものが必要です。
直近年度の決算報告書(貸借対照表・損益計算書)の写し企業の安定性・継続性を証明するために必要です。新規設立で決算期未到来の場合は、事業計画書を提出します。
前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の写しe-Taxの場合は「受信通知」を添付します。企業の規模や日本人従業員の給与水準を示す重要な書類です。
雇用理由書(任意)なぜこの外国人を採用する必要があるのか、どのような業務に従事させるのか、その業務が「技術・人文知識・国際業務」に該当する理由などを具体的に説明します。特に業務内容と学歴・職歴の関連性が分かりにくい場合に、説得力のある理由書を作成することが許可の鍵となります。
雇用契約書または労働条件通知書の写し職務内容、給与、労働時間などの条件を明記したもの。日本人と同等以上の処遇であることを示す必要があります。
会社案内など事業内容を明らかにする資料企業のパンフレットやウェブサイトのコピーなど、どのような事業を行っている会社なのかを客観的に示す資料です。

5.3 外国人本人が用意する書類一覧

外国人本人にも、学歴や職歴が申請内容と一致していることを証明するための書類を準備してもらう必要があります。企業側は、どのような書類が必要かを本人に明確に伝え、取り寄せを依頼しましょう。

書類名内容・注意点
証明写真縦4cm×横3cm、申請前3ヶ月以内に撮影された無帽・無背景のもの。申請書の所定欄に貼り付けます。
パスポートの写し顔写真、身分事項、旅券番号、有効期限などが記載されているページのコピーが必要です。
学歴を証明する書類大学や専門学校の卒業証明書、または学位証明書。従事する業務と専攻内容の関連性を示す上で最も重要な書類の一つです。外国語で書かれている場合は、日本語の翻訳文も添付します。
職歴を証明する書類過去に勤務していた会社が発行した在職証明書など。職務内容、在籍期間が明記されている必要があります。実務経験を要件として申請する場合に必須です。
資格を証明する書類情報処理技術者試験の合格証書など、業務に関連する公的な資格を持っている場合に提出します。

5.4 オンライン申請と申請先出入国在留管理局の選び方

2019年より、一部の在留資格手続きでオンライン申請が可能になりました。企業の職員が「利用申出」を行い承認されれば、会社のオフィスから24時間いつでも申請手続きができます。窓口での待ち時間がなく、交通費もかからないため、積極的に活用したい制度です。

申請先となるのは、原則として受入れ機関(採用企業)の本社や事業所の所在地を管轄する地方出入国在留管理官署です。例えば、愛知県の製造業が外国人を採用する場合は名古屋出入国在留管理局、大阪府なら大阪出入国在留管理局が申請先となります。複数の工場や支社がある場合は、その外国人が主に勤務する事業所の所在地で判断します。

5.5 審査期間の目安とスケジュールの立て方

在留資格認定証明書の審査期間は、出入国在留管理庁が公表している標準処理期間では1ヶ月から3ヶ月とされています。ただし、これはあくまで目安です。企業の規模や実績、申請内容、申請時期(例:4月入社に向けた1月〜3月は混雑する傾向)によって審査期間は大きく変動します。

そのため、スケジューリングは余裕をもって行うことが重要です。一般的には、外国人の入社希望日から逆算して、少なくとも4ヶ月前には申請準備を開始するのが理想的です。

  • 4ヶ月前:採用内定、本人への必要書類準備を依頼、企業側での書類作成開始
  • 3ヶ月前:管轄の出入国在留管理局へ申請
  • 1ヶ月前:在留資格認定証明書(COE)の交付、本人へ原本を郵送
  • 入社2週間前:本人が自国の日本大使館で査証(ビザ)を取得、来日の準備
  • 入社日:来日、就労開始

書類の不備や追加資料の提出を求められる可能性も考慮し、タイトなスケジュールは避けるようにしましょう。

6. 製造業でのビザ更新と在留期間変更のポイント

「技術・人文知識・国際業務」ビザで採用した外国人社員が、長期的に活躍するためには、在留期間の更新や社内でのキャリアパスに応じた手続きが不可欠です。ここでは、製造業の人事担当者が押さえておくべきビザ更新と変更手続きの重要なポイントを解説します。

6.1 在留期間更新時にチェックされるポイント

在留期間の更新申請(在留期間更新許可申請)では、初回のビザ申請時と同様、あるいはそれ以上に厳格な審査が行われます。特に以下の点が総合的に審査されるため、日頃からの適切な労務管理が求められます。

  • 業務内容の継続性と専門性:入社時に申請した専門業務(設計、品質管理、生産技術など)に継続して従事しているかが最も重要です。特に製造業では、現場作業の割合が増え、当初の専門業務から実態が乖離していないかが厳しくチェックされます。業務日報や評価シートなどで、専門業務に従事している実態を客観的に示せるようにしておくことが望ましいでしょう。
  • 企業の経営状態と安定性:企業の決算状況や事業の継続性が審査されます。赤字決算が続いている場合や、社会保険料の未納がある場合は、安定的な雇用が難しいと判断され、更新が不許可となるリスクが高まります。
  • 本人の素行と納税状況:外国人社員本人が、日本の法令を遵守しているか、住民税や国民健康保険料などを適切に納めているかが確認されます。給与から天引きしている社会保険料だけでなく、個人で納付する住民税の滞納も更新不許可の要因となります。
  • 給与水準:引き続き、同等の業務に従事する日本人と同等額以上の給与が支払われているかがチェックされます。不当に低い給与は更新の際に問題視されます。

6.2 配置転換や業務内容変更があった場合の注意点

企業の事業戦略や本人のキャリアパスに応じて、社内での配置転換は当然発生します。しかし、その異動が在留資格の活動範囲を超えてしまうと、不法就労とみなされるリスクがあるため細心の注意が必要です。

例えば、「設計エンジニア」として採用した社員を、本人の希望や適性から「海外営業」に配置転換するケースを考えます。この場合、両方の職務が「技術・人文知識・国際業務」の範囲内であるため、基本的には問題ありません。しかし、当初の「技術」から「国際業務」へと活動の基礎となる区分が大きく変わるため、次回の更新時に説明を求められる可能性が高くなります。

このようなケースでは、配置転換を行う前に、出入国在留管理庁に対して「就労資格証明書」の交付を申請することをお勧めします。この証明書を取得することで、変更後の業務内容が現在の在留資格で認められる活動であることを事前に確認でき、安心して配置転換を行うことができます。また、次回の在留期間更新手続きもスムーズに進めやすくなります。

一方で、専門職として採用した社員を、人手不足を理由に恒常的に工場のライン作業といった単純労働に従事させることは、在留資格の活動範囲を逸脱するため認められません。

6.3 転職や出向が絡むケースでの実務対応

外国人社員の転職や、グループ会社への出向などが発生した場合、企業と本人がそれぞれ必要な手続きを行わなければなりません。手続きを怠ると、本人だけでなく企業側にもペナルティが課される可能性があります。

主なケースと必要な対応は以下の通りです。

ケース企業(現所属)が行うこと外国人本人が行うこと注意点
転職(退職)退職日から14日以内に、出入国在留管理庁へ「契約機関に関する届出」を提出する。退職日から14日以内に、出入国在留管理庁へ「契約機関に関する届出」を提出する。新しい勤務先で就労を開始する前に、在留資格変更許可申請等が必要。企業と本人の双方が届出義務を負います。届出は出入国在留管理庁電子届出システムを利用したオンライン提出が便利です。
出向出向契約の内容に基づき、雇用主としての責任を継続。出向先での業務内容が在留資格の範囲内であることを確認する。出向先での業務内容が、現在の在留資格で許可された活動内容と異なる場合は「在留資格変更許可申請」が必要になることがある。出向元との雇用契約を維持したまま出向する場合でも、出向先での業務内容によっては手続きが必要です。事前に就労資格証明書を取得し、適法性を確認することが最も安全です。
転職(受入)(新規採用と同様)在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更許可申請を行う。転職先の企業と協力し、必要な申請を行う。前職の退職から3ヶ月以上、正当な理由なく在留資格に対応する活動を行わない場合、在留資格が取り消される可能性があります。

特に、グループ会社間での出向は柔軟な人材活用に有効ですが、安易に行うと在留資格の問題に発展しかねません。必ず出向先での具体的な職務内容を確認し、必要に応じて専門家である行政書士などに相談しながら進めることが重要です。

7. 不許可事例から学ぶ製造業での技術・人文知識・国際業務ビザの注意点

技術・人文知識・国際業務ビザの申請は、要件を満たしているつもりでも、些細な点で不許可となるケースが少なくありません。特に製造業では、業務内容の判断が審査の大きな分かれ目となります。ここでは、実際にあった不許可事例をもとに、申請前に押さえておくべき重要な注意点を具体的に解説します。失敗から学び、確実なビザ取得を目指しましょう。

7.1 業務内容が単純労働と判断されたケース

製造業における不許可事例で最も多いのが、従事する予定の業務が「単純労働」にあたると判断されるケースです。この在留資格は、大学や専門学校で培った専門知識・技術を活かす業務が前提であり、誰にでもできる反復的な作業は対象外とされています。

例えば、「生産管理」という職種で申請したにもかかわらず、提出した職務内容説明書に「製造ラインでの製品組立・検品」「完成品の梱包・運搬」といった記述が大部分を占めていたため、不許可となった事例があります。たとえ管理業務の一部として現場作業を行う場合でも、その業務の主要部分が専門性を要する分析、改善、設計、管理業務であることを明確に説明できなければなりません。

出入国在留管理庁(入管)は、職種名だけでなく、具体的な業務内容の実態を重視します。申請時には、なぜその業務に大卒レベルの知識が必要なのか、論理的に説明することが不可欠です。

7.2 学歴・実務経験と業務内容の関連性が弱いケース

次に多いのが、採用する外国人の学歴(専攻分野)や職歴と、担当させる業務内容との間に関連性が見られないと判断されるケースです。

よくある例として、文系の学部(例:文学部、歴史学部)を卒業した外国人を、専門的な理系の知識が求められる「品質保証」や「設計開発」のポジションで採用しようとして不許可になる場合があります。本人が独学で知識を習得していたとしても、客観的な証明が難しいため、審査では学業での専攻が重視される傾向にあります。

この関連性を証明するためには、大学の成績証明書に記載されている履修科目と、担当業務の具体的な内容を一つひとつ照らし合わせ、関連性を丁寧に説明した理由書を作成することが極めて重要です。実務経験を要件とする場合も同様に、過去の職務とこれから担当する業務内容が技術・知識面でどう繋がるのかを具体的に示す必要があります。

7.3 給与水準や会社の安定性に問題があったケース

外国人材の生活の安定性を担保する観点から、給与水準や雇用する企業の経営状態も厳しく審査されます。不許可となるのは主に以下の2つのパターンです。

  1. 給与水準の問題:提示された給与額が、同じ業務に従事する日本人社員の給与水準と比較して低い場合や、同業他社の同職種の給与相場から見て著しく低い場合に不許可となる可能性があります。「外国人だから」という理由で不当に低い報酬を設定することは認められず、日本人と同等以上の報酬を支払うことが絶対条件です。
  2. 会社の安定性の問題:設立間もない企業や、債務超過、連続赤字など経営状態が不安定な企業の場合、事業の継続性や安定性に疑義が生じ、不許可の原因となります。その場合は、詳細な事業計画書や資金繰り表、取引先との契約書の写しなどを提出し、将来にわたって安定的に事業を継続し、外国人の雇用を維持できることを客観的な資料で立証する必要があります。

7.4 事前セルフチェックリストで防げるリスク

申請書類を提出する前に、社内でセルフチェックを行うことで、不許可のリスクを大幅に減らすことができます。以下のチェックリストを活用し、申請内容に不備や弱点がないかを確認しましょう。

チェック項目確認すべきポイント対策
業務内容の専門性職務内容に単純労働とみなされる可能性のある作業が含まれていないか?(例:ライン作業、梱包、清掃)専門知識を要する業務(設計、分析、管理、企画等)が全体の90%以上を占めることを具体的に記述する。
学歴・職歴との関連性本人の専攻科目や職務経歴と、担当させる業務内容に明確な関連性があるか?成績証明書と職務内容を照らし合わせ、関連性を説明する理由書を作成する。
給与水準同じ職務の日本人社員と比較して、給与額が同等以上になっているか?社内の給与規程や、同職種の日本人社員の賃金台帳の写しを準備し、同等以上であることを示す。
企業の安定性・継続性直近の決算で債務超過や大幅な赤字はないか?事業計画に具体性はあるか?決算書で問題がある場合は、今後の事業計画書や資金調達の証明資料等で安定性を補足説明する。
雇用契約の内容労働基準法に準拠しているか?職務内容が申請内容と一致しているか?雇用契約書と職務記述書の内容を再確認し、申請書類全体で矛盾がないようにする。

これらの不許可事例とチェックリストを参考に、一つひとつのリスクを丁寧に取り除くことが、製造業における技術・人文知識・国際業務ビザ取得の成功への近道です。

8. 特定技能から技術・人文知識・国際業務へのステップアップ

特定技能として現場で経験を積んだ優秀な外国人材は、企業にとってかけがえのない財産です。彼らが長期的に日本で活躍できるよう、「技術・人文知識・国際業務」ビザへのステップアップを支援することは、人材の定着と企業の持続的な成長に繋がります。この章では、在留資格変更の具体的な方法と、企業が取り組むべき支援策について解説します。

8.1 在留資格変更の要件と実務上のハードル

特定技能から「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更を成功させるには、いくつかの要件をクリアする必要があります。特に「学歴」と「業務内容」が重要なポイントとなります。特定技能ビザとの要件の違いを理解し、計画的に準備を進めることが不可欠です。

主な要件とハードルは以下の通りです。

項目技術・人文知識・国際業務で求められる要件特定技能からの変更におけるハードル
学歴要件大学卒業、または日本の専門学校を卒業し「専門士」・「高度専門士」の称号を得ていること。もしくは10年以上の実務経験(国際業務は3年以上)。特定技能人材の多くは、この学歴要件を満たしていないケースが多く、最大の障壁となります。
業務内容設計、生産管理、品質保証、海外営業、通訳翻訳などの専門的・技術的な事務職(ホワイトカラー業務)であること。特定技能の主な業務である工場での現場作業(ライン作業など)から、専門的な事務職への職務変更が必要です。単に役職名を変更するだけでなく、実態として専門業務に従事していることが厳しく審査されます。
給与水準同等の業務に従事する日本人と同等額以上の報酬を受けていること。現場作業者としての給与水準から、専門職としての給与水準への引き上げが必要です。企業の給与テーブルと整合性を取る必要があります。

これらのハードルを乗り越えるためには、企業側が本人のキャリアプランに寄り添い、計画的な育成と機会を提供することが求められます。

8.2 キャリアパス設計と教育研修の考え方

在留資格変更という高いハードルを越えるためには、場当たり的な対応ではなく、戦略的なキャリアパスの設計と、それに伴う教育研修が欠かせません。本人の意欲を引き出し、着実にステップアップできる環境を整備しましょう。

8.2.1 キャリアパスの具体例

例えば、以下のような段階的なキャリアパスを本人と共有し、目標を明確にすることが有効です。

  • ステップ1(入社〜3年目): 特定技能1号として現場作業に従事。日本語能力試験N2の取得と、生産管理の基礎知識(QC検定など)の学習を支援する。
  • ステップ2(4年目〜5年目): 現場リーダーとして後輩指導を担当。OJTで生産管理補佐や品質検査業務の一部を経験させる。
  • ステップ3(6年目以降): 大学の通信教育部や夜間部、専門学校等への進学を支援し、学歴要件をクリアさせる。卒業後、正式に生産管理部門や品質保証部門へ配属し、「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更を申請する。

8.2.2 効果的な教育研修制度

キャリアパスを実現するため、企業は以下のような教育研修制度を検討すべきです。

  • 日本語学習支援: オンライン日本語講座の受講費用補助、資格取得報奨金制度の導入。
  • 専門スキル研修: 社内での勉強会実施、外部研修への参加費用補助、資格取得支援(フォークリフト、溶接などの技能資格ではなく、生産管理や品質管理に関連する知識系の資格)。
  • 学費支援制度: 働きながら大学や専門学校に通うための奨学金制度や、勤務シフトの調整などの柔軟な対応。

8.3 中長期的な外国人活躍支援策

ビザの変更はゴールではなく、新たなスタートです。変更後も本人が能力を最大限に発揮し、長く会社に貢献してもらうためには、中長期的な視点での支援体制が重要になります。

8.3.1 公正な人事評価とキャリア機会の提供

「技術・人文知識・国際業務」ビザへ移行した後は、日本人社員と全く同じ人事評価制度の対象とし、昇進・昇格の機会を平等に提供することが不可欠です。国籍や在留資格の種類でキャリアパスに差を設けることは、本人のモチベーション低下を招き、離職の原因となります。

8.3.2 メンター制度と相談体制の構築

業務内容が現場作業から専門職に変わることで、新たな悩みや困難に直面することがあります。同じようにキャリアアップを経験した先輩外国人社員や、業務に精通した日本人社員をメンターとして配置し、気軽に相談できる環境を整えましょう。これにより、業務上の孤立を防ぎ、スムーズな適応を促進できます。

8.3.3 多様性を尊重する企業文化の醸成

最も重要なのは、外国人材を「労働力」としてではなく、共に企業を成長させる「パートナー」として迎え入れる企業文化を育むことです。経営層が明確なメッセージを発信し、全社員の意識改革を促すことが、真のダイバーシティ経営の第一歩となります。家族を呼び寄せる際のサポート(住宅探し、地域の情報提供など)も、本人が安心して働き続けるための重要な支援策です。

9. 製造業の人事担当者が押さえておきたい運用のコツと社内体制づくり

技術・人文知識・国際業務ビザを取得して外国人材を採用することは、ゴールではなくスタートです。採用した人材が能力を最大限に発揮し、長く会社に貢献してもらうためには、戦略的な運用と全社的な受け入れ体制の構築が不可欠です。この章では、人事担当者が主導して進めるべき運用のコツと、具体的な社内体制づくりについて解説します。計画的な仕組み化が、外国人材の定着と企業の成長を左右します。

9.1 採用計画とビザ戦略の立て方

場当たり的な採用ではなく、中長期的な事業計画に基づいた採用計画とビザ戦略を策定することが成功の第一歩です。まず、自社の事業展開(海外進出、新技術開発など)を見据え、「どの部署で」「どのようなスキルを持つ人材が」「いつまでに」「何名必要か」という人員計画を具体化します。

その上で、ターゲットとなる人材の要件に応じて最適な在留資格を選択する「ビザ戦略」を立てます。例えば、設計開発部門の即戦力エンジニアであれば「技術・人文知識・国際業務」、将来的な幹部候補となる高度な専門人材であれば「高度専門職」ビザも視野に入ります。現場作業も含むキャリアパスを想定する場合は「特定技能」からのステップアップも選択肢となるでしょう。事業ニーズと人材要件を明確にし、複数の在留資格を比較検討する視点が重要です。年間の採用スケジュールにビザ申請・審査期間(3ヶ月~6ヶ月程度)を盛り込み、余裕を持った計画を立てましょう。

9.2 社内での説明資料テンプレートと稟議の進め方

外国人材の採用は、経営層や現場部門の理解と協力なくしては進みません。人事担当者は、なぜ今外国人材が必要なのかを客観的なデータと共に説明し、社内のコンセンサスを形成する役割を担います。稟議をスムーズに進めるために、以下の要素を盛り込んだ説明資料を準備することをおすすめします。

項目記載内容のポイント
採用背景と目的事業計画との関連性、国内採用の難易度、技術革新や海外展開といった具体的な目的を明記する。
採用ポジションと職務内容配属予定部署、担当業務、求めるスキルセットを具体的に記述し、在留資格の要件を満たすことを示す。
採用のメリット専門知識の獲得、多様性の促進、海外市場へのアクセス向上など、企業にもたらすプラスの効果をアピールする。
想定されるコストとリスク採用コスト、ビザ申請費用、支援体制の構築費用などを概算で提示。併せて、不許可リスクやミスマッチによる早期離職リスクとその対策も記載し、透明性を確保する。
受け入れ体制と支援計画本章で後述するメンター制度、生活サポート、日本語教育などの具体的な計画を示し、会社として責任を持って受け入れる姿勢を示す。

特にコストとリスクを正直に開示し、それに対する具体的な対策をセットで提案することが、経営層や現場の信頼を得る鍵となります。

9.3 外国人社員の受け入れ体制と定着支援

内定から入社後まで、一貫したサポート体制を構築することが、外国人社員の早期戦力化と定着に直結します。ハード・ソフト両面での準備を進めましょう。

9.3.1 入社前の準備と生活サポート

ビザ申請と並行して、日本での生活基盤を整えるサポートを行います。企業がどこまで支援するかを事前に明確にしておくとスムーズです。

  • 住居の確保:社宅の提供や、連帯保証人問題に対応できる不動産会社の紹介など。
  • 来日時のサポート:空港への出迎え、役所での住民登録、銀行口座の開設、携帯電話の契約などへの同行・支援。
  • ウェルカムキットの用意:社内ルールブック(やさしい日本語版)、周辺エリアの生活マップ、緊急連絡先リストなどをまとめた資料を渡すと安心感を与えられます。

こうした生活面の不安を解消することは、社員が業務に集中するための重要な基盤となります。出入国在留管理庁が提供する「外国人生活支援ポータルサイト」などの公的リソースも活用し、必要な情報を提供しましょう。

9.3.2 入社後の定着支援とキャリア形成

入社後は、孤立を防ぎ、エンゲージメントを高めるための継続的な働きかけが求められます。

  • メンター・バディ制度:業務の指導役とは別に、年齢の近い日本人社員を相談役(メンター/バディ)として配置し、公私にわたるサポートを行う体制は非常に有効です。
  • コミュニケーションの活性化:定期的な1on1ミーティングで業務の進捗や悩みをヒアリングするほか、歓迎会や部署を超えた交流イベントを企画し、社内ネットワークの構築を支援します。
  • 教育・研修機会の提供:業務に必要な専門知識の研修に加え、ビジネス日本語や日本の商習慣に関する研修機会を提供することで、スキルアップとキャリア形成を支援します。
  • 評価制度の透明化:評価基準やキャリアパスを明確に示し、国籍に関わらず公正に評価される環境を整えることが、モチベーション維持に不可欠です。厚生労働省が示す「外国人雇用のルール」に則り、日本人との均等待遇を徹底しましょう。

外国人社員を「特別な存在」としてではなく、多様なバックグラウンドを持つ「一人の社員」として尊重し、活躍を支援する文化を醸成することが、人事担当者に求められる最も重要な役割と言えるでしょう。

10. まとめ

本記事では、深刻化する人手不足に直面する製造業において、「技術・人文知識・国際業務」ビザを活用して専門的な知識を持つ外国人材を採用するためのポイントを、網羅的に解説してきました。結論として、この在留資格を適切に理解し、戦略的に活用することが、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠であると言えます。

最も重要なポイントは、在留資格の根幹をなす「業務内容と本人の専門性の関連性」を明確にすることです。なぜなら、「技術・人文知識・国際業務」ビザは、大学等で修得した専門知識や実務経験を活かすホワイトカラー業務に従事する外国人のための資格であり、工場現場でのライン作業などの単純労働は認められていないからです。設計開発、生産技術、品質管理、DX推進といった「技術」分野、あるいはマーケティング、海外営業、貿易実務、通訳翻訳といった「人文知識・国際業務」分野のいずれかに該当する専門的な職務内容を設計し、求人票や職務記述書に具体的に落とし込むことが、ビザ申請の成否を分ける最初のステップとなります。

次に、採用候補者の学歴や職歴が、任せる予定の業務内容と密接に関連していることを客観的な資料で証明する必要があります。出入国在留管理庁の審査では、本人の専攻科目と業務の関連性が厳しく問われます。したがって、採用選考の段階からこの関連性を意識し、なぜその人材がその業務に適任であるのかを論理的に説明できる準備をしておくことが極めて重要です。この関連性が弱いと判断された場合、不許可となるリスクが非常に高まります。

また、受け入れ企業側の体制整備も審査における重要な要素です。ビザ申請が許可されるためには、企業の事業の安定性・継続性が前提となります。具体的には、日本人社員と同等以上の給与水準を保証すること、社会保険へ適切に加入させること、労働基準法を遵守した雇用契約を締結することなどが求められます。これらの対応は、コンプライアンス遵守の観点だけでなく、採用した外国人材が安心して長く活躍し、定着してもらうための基盤づくりそのものであると認識すべきです。不許可事例の多くは、業務内容のミスマッチだけでなく、こうした企業の受け入れ体制の不備が原因となっています。

「技術・人文知識・国際業務」ビザの申請は、必要書類も多く、審査には数ヶ月を要します。そのため、場当たり的な対応ではなく、事業計画と連動した計画的な採用活動が不可欠です。本記事で解説した申請フローや必要書類、不許可事例を参考に、自社の状況と照らし合わせながら、周到な準備を進めてください。特定技能からのステップアップなど、中長期的なキャリアパスを設計することも、優秀な人材を確保し続ける上で有効な戦略となるでしょう。複雑な手続きに不安がある場合は、行政書士などの専門家の支援を得ることも賢明な選択です。本記事が、貴社の外国人材活用の一助となれば幸いです。

  • この記事を書いた人

行政書士 松浪 正治

ビザ申請を専門にしている大阪府枚方市の行政書士です。 オンライン申請により全国対応可能です。

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